連載②

正式に採用が決まってから三ヶ月、畑違いの教職について色々な準備やイメージをした。塾講師のバイトをしたり、 センター試験難関大学の入試問題も分析した。そして、今世間を賑わしているいじめや体罰、事例を集めれるだけ集めた。教育委員会や行政の方向性、ルール、とにかく今できる事は勉強した。私は熱血教師になりたいわけでもなければ、いい先生になりたいわけでもない。ただ大事なのは結果だ。数字に出る学力は勿論の事、私は将来日本を背負っていける強く、優秀な人材を育てたかった。
それにはいかに自律させる事ができるか、それに尽きる。自分で感じ、考え、行動できる人間はどんな分野でも活躍できる。その為なら、教師は多少嫌われても仕方がない。


さぁ、ついに今日から始業式だ。わが校は難波駅からはかなり遠くにある。駅からは自転車で30分、バスで15分といったところ。私はマイカー通勤。社会人三年目に購入したアクアに乗り、家から大体片道30分。さすがに初日の行きは緊張し、予定より大分早く着いてしまった。駐車場から校門に向かうにつれ、心臓が不安で押し潰されそうになる。ついにここまで来てしまった。もう後戻りはできない。

まだ、7時半。さすがに生徒らはほとんどいなかったが、朝練の準備をしているサッカー部員が不可思議そうな目で遠くからこちらを見ている。確かに私の風貌は所謂サラリーマンで、全身びっしりスーツを着こなしてくる教師は意外に少なく目新しいのかもしれない。ただし、私はまずこのスタイルを変えるつもりは無い。ジャージやラフな格好で授業をやる気は無いし、そういう所から周りを少しでも牽制したかった。


校門からグランドを横に見、桜並木が美しく彩る校長先生曰くロマンチックレーンを抜けるといよいよ校舎だ。また一段と気が重くなる。前職でも訳もなく出勤前に気が重くなる事はよくあった。一時期は鬱じゃないかと思った事もあったが、いざ働き出すとスイッチが入り退社時には一仕事終えた心地好い疲労感に包まれていた。だから、今の気持ちも一時的なものだと自分に言い聞かせ、奮い立たせた。


職員室に向かう途中で長谷川校長に会った。私が今この学校で顔を知っている数少ない人間。採用が決まってから色々な世話をしていただき、人柄も温厚な素敵な人物だ。

「おはようございます、長谷川さん。本日からお世話になります」

「おー、おはよう、湊先生。早いねぇ。じゃ、早速机とかガイダンスしていいかい??」

「よろしくお願いいたします。」

校長に連れられ、基本的な事をガイダンスしてもらった。そうこうしているうちに、他の先生方も出勤してき、それぞれに挨拶して回った。

英語の村田先生は女性で歳は一回り上、少しぽっちゃりした癒し系といった所。数学の井上先生はいかにも理系で声が小さい、学者系。古典の菅先生は眼鏡を掛けていて、目を見て話してくれないシャイ系。体育の吉川先生は坊主でいかにも頑固って感じ、親父系。他にも色々な先生と話したが、まぁ、これから徐々に覚えていけばいい。ちなみに、私の担当は現代文。学生の頃にセンター試験で満点を取った得意科目だ。

時刻は8時半を過ぎ、始業式の為に体育館に向かった。ついに全校生徒と顔を合わす事ができた。いよいよ始まる。校歌斉唱が終わり、校長の話が終わり、我々新任教師の紹介へと移る。

「続きまして、本年よりわが校の教員となり、三年一組を担当して頂く湊先生です」

「皆さん、おはようございます。松本電機からやってきました湊祐介です。私が皆さんに伝えたい事は社会で生きるとはどういう事なのかという事です。はっきり言いましょう。三年生のこの一年は皆さんの人生の大部分を決めます。覚悟をもって一緒に学んでください。」

三年一組の生徒達の方から、なんとも言えないざわつきがした。さぁ、これからよろしくな。